1、アンテナ
■茨木のり子さんという詩人がいます。茨木さんは、1926年に生まれ、その青春時代を戦争中に過ごされ、2006年に亡くなっています。戦後、たくさんのみずみずしい詩を発表されました。
■茨木さんの詩に「汲む」があります。私の大好きな先生から教えていただいた詩です。教室での先生はみなさんにどう見えているのでしょうか。自信たっぷりに見えますか。自分たちとは違う「大人」に見えますか。サインのキャッチは難しくて、うまくいかないことも多くて。大丈夫かしらと不安に思ったり、自信をなくしたり。そんな風に毎日、ゆれながら、悩みながら教室に立っています。きっと皆さんと同じです。アンテナを折ってしまうと楽なのでしょうか。でも、やっぱり「震える弱いアンテナ」を持ち続けたいなと思います。
汲む 茨木のり子
大人になるというのは
すれっからしになることだと
思い込んでいた少女の頃
立居振舞の美しい
発音の正確な
素敵な女のひとと会いました
そのひとは私の背のびを見すかしたように
なにげない話に言いました
初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始るのね 墜ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなかった人を何人も見ました
私はどきんとし
そして深く悟りました
大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子供の悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇 柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと……
わたくしもかつてのあの人と同じくらいの年になりました
たちかえり
今もときどきその意味を
ひっそり汲むことがあるのです
2、トイレの神様
■後期、掃除区域が入れ替わり、トイレ掃除も六年教室前から四年教室前になりました。トイレ掃除の点検は、楽しみな時間です。なぜかというと、とてもきれいに掃除をしてくれているからです。床を雑巾でふいたり、使った掃除用具をきちんと整頓していたり。それらを黙って黙々とやるところが、いつもいいなあと感心しています。トイレの神様もきっと見て下さっていることでしょう。
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